グリーンインフラとは

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「グリーンインフラ」の時代へ (その1)

一般社団法人 グリーンインフラ総研 代表理事 木田幸男
理学博士 技術士(都市及び地方計画)樹木医

都市における「良い環境」とは

30年ほど前、都市における「良い環境」のキーワードは、「美しい」「潤い」「賑わい」「誇り」でした。緑化は、「美しい」や「潤い」などの一要素として整備され、「きれい、癒される」といった直接的な受け止められ方で進化してきました。

ところが、現在のように成熟した都市の中で再度「良い環境」を考えると、もうこれら4つの言葉だけでは表現できないことに気づきます。そこに災害への「安全」や「冷える」といった気候変動に関する都市基盤の課題を解決できる要素が入ってこなければ「良い環境」にはならないのが現状です。6割近くの人が都市に住む現在、年々都市型集中豪雨が激しくいる現状に危機感が高まっています。しかし、具体的な対応策が進んでいない苛立ちにも気づかされます。

ゲリラ豪雨の例ゲリラ豪雨の例 

日本における雨水マネジメントは、いかに早く多く流し去るかを基本とし、土木技術の発達と共に、実に大掛かりな手法で対策されてきました。東京の環状7号線の下には、内径約12.5m、長さ約4.5kmに及ぶ巨大トンネルが建設され、豪雨時の氾濫対策に使われています。各地にも、ここまで巨大ではないが、地下には多くの排水管が敷設されていますが、近年の都市型集中豪雨の大型化に対応しきれていないのが現状です。そもそも、このような施設を作らなければならなくなった原因は、地表面をコンクリートやアスファルトで覆ってしまった都市化にあり、これに対して何らかの手法で対応する必要性に直面している。

大都市ほど緑を活用

海外で始まるグリーンインフラ:ポートランド市資料より海外で始まるグリーンインフラ:ポートランド市資料より

一方、海外に目を向けると、東京のように大きな街がいくつもあり、当然そこではヒートアイランド現象の激化や都市型集中豪雨対策に苦慮しています。しかし、ここで日本と違う点は、大きな都市ほど緑をうまく使ったグリーンインフラ技術に注目し、結果を出している点です。グリーンインフラとは、緑(グリーン)の機能に注目して、それを都市基盤(インフラ)として機能させようとする考え方で、冒頭の緑に対する直接的な受け止め方とは一線を画するものです。すなわち、グリーンに関係する植栽や土壌のもつ自然の仕組みを利用して、例えば雨水の貯留・浸透、流出抑制、汚染物質の除去、利活用、地下水涵養などを行い、洪水などの対策にしようとするものです。

これらは、雨が降った時にしか機能しない土木技術(これをグレーインフラとよぶ)に対してグリーンインフラと呼び、多くの便益を明らかにしながら世界的な流れとして今広がっています。例えば、ニューヨーク市のNYCグリーンインフラストラクチャープランしかり、環境先進都市で有名なオレゴン州ポートランド市のグリーンストリートプロジェクトしかり。

日本の事情に合わせた技術・手法が必要に

日本においては、2015年の国土交通省による「国土のグランドデザイン2050」の中に、始めてグリーンインフラという言葉が登場しました。この国土形成計画は閣議決定で定められていることから、わが国の社会資本整備の方針として正式に取り入れられたことになります。また、今年5月には国土強靭化政策の一環としての活動であるグリーンレジリエンスの提言書にも「グリーンインフラ」という言葉が随所に使われています。(一社)日本建築学会における委員会や日本緑化工学会などの学術分野でも取り上げられ、理念や具体的な手法の開発が進められており、いよいよグリーンインフラ時代の到来を感じさせます。

日本で普及するには多くの課題があります。一つは、明確な方向性です。メリットやデメリットなどを明確にして、適応性や体制を検討する必要があります。何より、首長が大きな方向性を示す必要があろうかと思われます。また、海外の手法をそのまま日本に導入してもうまく機能しません。やはり、日本の事情に合わせた技術開発が必要となります。メンテナンスなどの長期にわたる問題点も検討しておかねばなりません。

いずれにしても、このままのグレーインフラ対応では、今後益々激しくなる都市型豪雨対策には限界があります。グリーインフラとグレーンインフラの併用による、自然を模倣した賢い街づくり、世界の都市間競争にも勝てるほどの安全で冷える街づくりを模索することが緊急課題といえます。グリーンインフラ総研では、そのような方向性を明確にしつつ、今後世界の各都市の戦略と手法を紹介し、最終的に日本発の独自手法を提案していきたいと考えています。