「グリーンインフラ」の時代へ (その4)
一般社団法人 グリーンインフラ総研 代表理事 木田幸男
理学博士 技術士(都市及び地方計画)樹木医
民が興味を持ち出したグリーンインフラ
海外のグリーンインフラは、アメリカの環境保護庁(EPA)やヨーロッパの欧州委員会(EC)といった国家主導の下で進められ一般化してきました。日本においては、まだまだ官・学を中心とした定義論や政策論に終始していると思われていますが、実は規模は小さいながら、民による施工実績が現れはじめています。
いわゆる雨庭(あめにわ)の造成や雨水(あまみず)活用がそれです。それらが実現している背景には、単にトップランナーとしての「先進性」だけではありません。そこには「環境への貢献」という時代の要請や「災害時への対応」といった大義と同時に、「将来へのポテンシャル」、言い換えれば「緑化の方向性」を感じていることがあると思われます。
この動きはやがて活発化してくるはずです。そのためには、民にとっての「経済合理性」がもっと前面に出てこなければならなりませんし、それは緊急のテーマだと強く感じています。
グリーンインフラの基礎を担う緑化技術
これから来る「グリーンインフラの時代」を支えるには、時代の求める独自の緑化技術が必要です。この40年ほどの間に日本では、土壌改良技術、屋上緑化や壁面緑化そして潅水といった特殊緑化技術が進展してきました。今、ヒートアイランド現象が続き都市型集中豪雨が頻発する時代に差し掛かり、それらを緩和できる緑化技術に注目が集まっています。
それがグリーンインフラそのものです。その基礎を担う日本版緑化技術の開発は緊急かつ重要な課題になっています。それはデザイン力・提案力の開発であり、基盤をなす施工技術の開発と認知活動です。また、世界中が注目しているメンテナンス技術がついてこなければ、将来の発展はないと思います。
「真似る」から「倣う」へ
グリーンインフラのキーワードは、「Mimic the Nature: 自然を真似る」といわれます。日本では「真似る」という言葉に多少抵抗があるため、どちらかというと「Follow the Nature: 自然に倣う」といった表現が受け入れやすいです。それは都市の中に40年以上前の世界を取り戻す技術です。「大地の力を、都市の力に」変えていく技術でもあります。その効果・メリットを明確に数値で表明できれば、官・学・民あげてグリーンインフラ創出に向けて動き出すに違いありません。これが日本でのグリーンインフラ定着の道筋でしょう。そのためには、新たな緑化技術の開発が必要となります。
グリーンインフラには一体どれだけの数の技術分野があるのか、がこれまで不明でした。これは、分野というより要素(Elements)といった方が分かりやすいです。アメリカでグリーンインフラを推進するEPAが示す要素は11です。
日本ではもう少し場面設定が増えて、これを14とし、「技術的要素」と「場面的要素」に大別しました。「技術的要素」には雨水の利用、雨庭、緑溝、透水性舗装など基本的な要素が含まれます。「場面的要素」としては、それらの技術を総合した緑の道、緑の駐車場、緑の公園、屋上緑化など、身近な緑化場面をあげることができます。それらの要素が一体となって街づくりに生かされていくと、ニューヨークやポートランドが進めてきた施策に劣らないサスティナブルな都市計画像が見えてきます。
屋上緑化は分かりやすいグリーンインフラ
6年ほど前、シカゴ市役所の庁舎屋上庭園を見る機会がありました。やや老朽化した屋上表面は凸凹で、手摺りもなく、怖い思いをしましたが、やや粗放型ともいえる屋上緑化部分では、緑化していない屋上部分と比べて明らかに涼しさを感じました。ここでは直下階の空調代は年間で3,600ドル安くなり、養蜂場も設置されていて、何より世界中からの見学者が絶えないという宣伝効果があります。屋上緑化がグリーンインフラの一要素だという新たな認識を提供できる実績だと思います。
その近くに2004年に完成した世界一大きな屋上庭園、ミレニアムパークがあります。公園の下には鉄道線路や大駐車場、それにコンサートホールまで設置されています。そこはまるで普通の公園で、大都市とは思えない自然を感じさせる。日本でも2005年に「なんばパークス」が完成している。面積はミレニアムパークの1/10とはいうものの約1haあり、約10年後の調査結果で「自然同様の環境に戻りつつある」という報告がありました。これらの事実は、「自然の力を都市の力に」できる、グリーンインフラの一つの姿だと感じています。
価値の表現はグリーンインフラ推進の原動力
出典:" The benefits and Challenges of Green Roofs on Public and Commercial Buildings "
General Service Administration. 2011
2016年8月の日経アーキテクチュアによると、最近海外で大規模な屋上緑化、壁面緑化が人気の理由は、そのベネフィットが適正に評価され、不動産価値に反映されているからだということです。記事中、アメリカ連邦調達庁による「既存建築の屋根を緑化し50年間建物を使用した場合の損益の試算」によれば、雨水流出抑制と省エネ効果のような一時的利益より二次的な利益、すなわち不動産価値に与える影響や周辺環境への影響の方がはるかに高い数値を示すといいます。
さらに快適性、知的生産性の向上といった経済効果には現れない効果も大きいと添えられていました。このように効果を数値で表現して経済的メリットを明らかにすることがグリーンインフラの目指す方向性であり、発展への原動力となりうることは確かだと思います。