グリーンインフラとは

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「グリーンインフラ」の時代へ (その5)

一般社団法人 グリーンインフラ総研 代表理事 木田幸男
理学博士 技術士(都市及び地方計画)樹木医

「緑は都市のインフラ」だという位置づけ

10月にグリーンインフラに関するシンポジウムが2つ続けて開催されました。一つは日本緑化工学会が主催した「グリーンインフラを活用した新しい街づくりに向けて」です。ポートランド州立大学教授の基調講演で、世界のグリーンインフラの実情が確認されました。ここでは国土交通省の下水道部からの発表や横浜市他での具体的な取り組み事例が紹介され、日本でグリーンインフラが進みつつあることがよく分かりました。会場は定員300名のところ370名が詰めかけ、これから始まるグリーンインフラの時代を感じさせるものでした。

もう一つは、日・中・韓3カ国の造園団体が主催した国際会議、テーマは「都市インフラとしてのランドスケープ」です。これからの緑化は「都市のインフラとしての役割を果たさなければならない」という方向性が明確に打ち出されていたことが大変興味深かったです。「オリンピックと東京都心の緑のネットワーク」とした基調講演では、緑の質の必要性とグリーンインフラへの取り組みが重要だと痛感させられました。会場は研究者の熱気に包まれ、海外の事例からも今後の緑化の位置づけを再認識した時間でした。

世界を変える100の技術

2016年10月発売の「日経テクノロジー展望2017」に「世界を変える100の技術」が発表されました。今話題のスマートフォンによる画像診断や車の自動運転装置など、我々の身近にある新技術などと一緒に「グリーンインフラ技術」が紹介されました。副題は「街路樹支える土が涼しくする」。要点だけの言葉で即座に理解できません。すなわち、「地下に雨水を溜められる基盤材があり、そこを生育基盤とした樹木が水を吸い上げて、葉から蒸散する際に熱を奪って街を冷やす」という意味で、これは弊社の技術の紹介だったのです。

涼しさを実感できる街創り

場所は横浜市「みなとみらい21中央地区」にあるグランモール公園。その改修工事に植栽基盤としてJ・ミックス工法が紹介されました。図1をご覧いただくと分かりやすいです。この技術のポイントは、雨水貯留浸透基盤材(J・ミックス)の使用です。一見石ころだらけに見える基盤材ですが、樹木の生育が一般土壌に比べて良好であることが実証されています。そして、なんと基盤材の素材はコンクリート再生砕石。普通はアルカリ性が高く、そこには根が伸長しないのが一般常識です。しかし、この基盤材では問題なく育ちます。

その常識を覆したのが腐植です。これを礫の表面にコーティングすることで、根は礫のすき間を伸長して生育します。腐植のもつ緩衝能力です。単粒度の礫で形成された空隙内には水、空気、栄養が存在し、一般土壌より条件が良いのです。雨水はその空隙に一時的に溜められることから、豪雨対策のための貯留浸透槽としても意味をもちます。雨水は根によって吸い上げられ、葉から蒸散する際に周囲からエネルギーを奪い空気を冷やします。同時に、地下の雨水は地表の保水性ブロックに供給され、「打ち水効果」で冷えるのです。結果、公園を訪れた人が涼しさを実感でき、人の賑わいを誘致できる効果にもつながっています。

図1 グランモール公園断面模式図図1 グランモール公園断面模式図基盤材下層の雨水は腐植の効果でしみ上がり、保水性ブロックを連続的に加湿して冷却効果を発揮する。また、樹木の根から吸い上げられた雨水は、葉からの蒸散作用で冷却効果を発揮する。地域の微気象改善にも役立つ。

写真1 吸い上げテスト写真1 吸い上げテスト左がコンクリート再生砕石のみ、右がコンクリート再生砕石に腐植をコーティングした基盤材。一週間後のしみ上がりの高さは明らかである。

水を吸い上げられる基盤材

水が毛細管で吸い上げられる場合、毛細管の直径がゼロに近いほど、水柱の高さは10mに近づいていきます(1気圧の場合)。それを人工的な素材を使って実証するとなると、簡単なことではありません。不織布などのフィルターを使用すると、せいぜい20cm程度までが限度で、それ以上は困難なことに気づきます。

これを腐植で行うと、60cmまで簡単に吸い上がってくれます(写真1)。腐植のもつ微細な構造が、礫表面の連続性によって吸い上がるのです。この水の上部への移動が可能になれば、土中にある水分を地表面に供給することが可能になります。

涼しくなるメカニズム

「打ち水効果」という言葉があります。暑い日に庭先や道路に水を撒くと、一瞬涼しく感じる現象です。これは水が気化する際に周囲から熱を奪うためで、1gの水が気化する際に539カロリーの熱量を奪います。この気化熱は、素材が乾くと発揮されません。ずっと冷やすためには、常に表面に水を供給し続ける必要があります。

もし地下から連続して水の供給があれば、話は違ってきます。図1の雨水貯留浸透槽内は常に雨水で湿っている状態が可能です。その水分が腐植によって地上に吸い上げられ、地表面の保水性ブロックと一体化すれば、長期間の加湿効果を得ることが可能となります。地表からの「打ち水効果」ではなく、地下からの「打ち水効果」です。この現象は、地表面からの高さ毎や基盤材の使用、未使用による違い、さらにサーモグラフィによる実証も行われて、地域の微気象改善に役立っていることが証明されています。また、現在調査中ですが、緑量の増加と相まって「人をとどめる」効果も高く、隣にあるショッピングモールへの集客増加につながっている可能性も高いです。