ニューヨークにおけるグリーンインフラ計画
一般社団法人 グリーンインフラ総研・研究員 久米昌彦
近年の気候変動に伴う異常気象はこれまで経験した事のない大型台風や都市型集中豪雨・ヒートアイランド現象等の自然災害を引き起こし、特に都市部における被害は益々深刻なものとなっています。気候変動・地球温暖化への対策はCOP21のパリ協定(2015年)を経て既に地球規模でその対応策を実行する新たなフェーズに入ってきました。
世界の商業、金融、不動産、メディア、アート、エンターテイメント等、あらゆるビジネスの中心地であるニューヨークも猛威を増す気候変動への適応策として、グリーンインフラを活用した都市整備に取り組んでいる都市の一つです。
そこで2016年7月上旬、ニューヨークが推進するグリーンインフラを把握するためにニューヨーク市環境保護局への現地視察・インタビューを行いました。
ニューヨークの下水道事情
ニューヨーク市環境保護局では、市民への水の供給・汚染水の処理・湾内の水質管理・大気汚染や騒音公害等の管理を行っています。下水道には「分離式下水道」と「合流式下水道」の両方が存在しますが、ニューヨークは古い都市のため、下水道の大半は合流式下水道となっており、雨水と下水が同じ菅へ流れ込み、処理場に運ばれて浄化されます。
下水処理場では基本的に市内の全下水を処理できますが、豪雨時に大量の雨水が下水道に流入すると処理場では処理しきれず、あふれた下水は直接河川や湾内に放流されることになります(合流式下水道越流水)。
特にニューヨークはいくつもの島で構成されている水に囲まれた都市のため、小さな運河・川・湾が多く存在します。そのため、合流式下水道超流水が放流された小さな運河・川は市の水質基準を満たさない不衛生な運河・川となっているのが現状です。
ニューヨークのグリーンインフラ計画
これらの問題に対し、ニューヨーク市は2010年に合流式下水道エリアにおいて屋上緑化やその他緑化資材を用いて雨水を集水する事を目的にしたグリーンインフラ計画(NYC Green Infrastructure Plan)を打ち出しました。2011年にはグリーンインフラ計画を推進するためのグリーンインフラオフィスが設立され、2012年には環境保護局とニューヨーク州環境保全局が協力して合流式下水道越流水の対策を推進しています。
同計画では2030年までに15億ドルを投資してグリーンインフラを整備することで、合流式下水道エリアにおける不透水舗装面積の10%にあたる地表面流出を段階的に削減する目標が掲げられており、街路や歩道・校庭等の公共用地へのグリーンインフラ整備、私有地の所有者への助成金制度、その他研究開発、実証実験、メンテナンス、住民参加型プログラム等、非常に多岐に渡る計画となっています。
以上のような経緯から、ニューヨークのグリーンインフラは雨水管理を主目的に整備されており、全てのグリーンインフラは不透水舗装面から雨水を集水する機能を果たしています。
また、グリーンインフラは雨水管理の他にも環境面での二酸化炭素の吸収・都市のヒートアイランド現象緩和・建物のエネルギー需要の軽減・都市の生態系・空気の浄化、社会面での生活の質の向上・緑関連の雇用創出、経済面での雨水処理費の軽減・不動産価値の向上等、様々なメリットがあります。
歩道のレインガーデン
ニューヨーク市で最も一般的なグリーンインフラは歩道に整備されるレインガーデンです。レインガーデンは様々なロケーションで整備が出来るように、コスト・性能・景観など実現可能性が熟考された上でデザインされ、部材・スペック・推奨植栽等がすでに仕様化(2012年)されています。仕様化されたグリーンインフラは合流式越流水が発生している地点を中心に戦略的に整備計画が実行されており、現在までに施工中のものも含めて2300箇所以上のレインガーデンが整備されているとのことです。
レインガーデンの設計仕様は随時、より良いものへ改良され更新しています。今後は次なるステップとして『グリーンストリート』の仕様化へ向けて、透水性舗装のパイロット事業やグリーンインフラに付随する更なるメリットやコスト分析等とあわせて、更なる開発に力を入れていく模様です。