グリーンインフラとは

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「グリーンインフラ」の時代へ (その2)

一般社団法人 グリーンインフラ総研 代表理事 木田幸男
理学博士 技術士(都市及び地方計画)樹木医

これまで通りの対策に、地球の将来はない

昨年末に開かれたCOP21で合意された「パリ協定」では、地球全体の気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることに世界が合意しました。これまで消極的だったアメリカと中国が合意したことに、「今回は本気だ」と強く感じたことを覚えています。

ただ、これまでと大きく違う点は、「一層の省エネをしましょう」ではなく、「化石燃料と決別しなければならない」という意味が含まれていることです。「化石燃料を使わない」という方向に世界中が動かざるを得ないほど、地球環境が逼迫しているという事実です。地球温暖化によって引き起こされる豪雨や旱魃は、今後人々の生活を大きく制約することになるでしょう。近くは産業構造をも変えてしまうほどのインパクトを与えるかもしれません。実際、経済界では今「ダイベストメント」という言葉が現実のものとなっています。

「投資の引き上げ」を意味するこの言葉、アメリカでは将来の展望を失った有力石炭会社の倒産が相次いでいるようです。また、災害と向き合う手法も大きく変わらなければなりません。今まで通りのコンクリート一辺倒から、もっと自然に倣い、活用するといった原点に戻ることが要求されています。

ニューヨークではグリーンインフラが普及し始めた

ニューヨーク:リビルド・バイ・デザイン BIG Uニューヨーク:リビルド・バイ・デザイン BIG U
http://www.rebuildbydesign.org/project/big-team-final-proposal/

先月(2016年7月)、ニューヨーク市を訪問してきました。今注目のハイライン(廃線を利用した延長2.3kmに及ぶ人工地盤緑化)は、昔の寂れた線路敷きに代わって、緑いっぱいの魅力ある空中庭園に変貌し、観光客で溢れかえっていました。周辺の経済効果は何と3,000億円といわれています。このハイライン、一旦雨水を貯留しながらゆっくりと地面・地下に流していく、言わば一つのグリーンインフラとして位置づけられています。ニューヨークでは、4年前のハリケーンサンディによる甚大な被害の教訓から、マンハッタン島の南端バッテリーパークを中心に「リビルド・バイ・デザイン」という災害対策計画が進められています。この計画実施のコンペで採択されたBIG U計画は、災害の緩衝対策に緑の力をうまく活用しているところが大きく評価されています。ここでも、今までの防潮堤などといったグレーインフラはすっかり姿を消す計画になっています。

ニューヨーク:側道のレインガーデン 下層に雨水貯留浸透槽が設置されているニューヨーク:側道のレインガーデン
下層に雨水貯留浸透槽が設置されている

ニューヨーク市役所のグリーンインフラ推進担当者にもインタビューする機会がありました。ニューヨークではすでにブルックリン地区を中心に、2,300箇所のグリーンインフラ(レインガーデン、雨水貯留浸透施設)の施工が完了し、今後更に広めていきたいとのことでした。2010年、当時の市長ブルームバーグ氏の強いリーダーシップで始まったグリーンインフラストラクチャープランは間違いなくその実績を上げており、グレーインフラよりもずっときれいに、そしてコストメリットも高めながら、ますます発展していくと思われます。グリーンインフラの大きな将来を確信した次第です。

グリーンインフラで雨水対策と冷える街づくりを

7月25日発売の「日経コンストラクション」で、25ページにわたってグリーンインフラが特集されました。「いざ!グリーンインフラ」のサブタイトルとして「公共事業を変える波に乗り遅れるな」という、非常に衝撃的な文言が並んでいました。記者は取材の中で、おそらくグリーンインフラという手法なくして今後の公共事業はあり得ない、くらいの印象を受けたに違いありません。土木の業界はグリーンインフラに大きく舵を切らなければ、時代に乗り遅れると言いたかったのだと思います。

雨水に関わる記事で興味深かったのは、横浜市グランモール公園に関する内容です。ここでは公園に降った雨を特殊な植栽基盤に溜め、そこに樹木の根系を誘引し、樹木の蒸散力を使って水を地中から大気中に循環させる「みず循環回廊」という、これまでにない新しい概念、手法を取り入れています。下層に溜まった水をうまく吸い上げて、地上の保水性ブロックで街を冷やす工法の定量的な検証も現在進められています。まさに「脱・下水への強制排水」の実現です。グリーンインフラを使った冷える街づくりの手法が確立されれば、「公共事業を変える波」がここから発信されることになるかもしれません。

個人邸でも雨水の利活用が進められています。九州大学の島谷教授によって「コミュニティー治水」という新しい言葉が誕生し、実生活での雨水利用研究も始まったようです。グリーンインフラは防災、街づくり、雨水活用など、大きな可能性をもった都市基盤として発展していきそうです。

昨今の夏の暑さは異常なほどです。都市に住む人たちが安全・快適に暮らせる街づくりの必要性が年々強く感じられます。海外の先進事例に学び、日本流グリーンインフラ手法を用いた、安全で冷える街づくりを今まさに進めなければなりません。